| HAPPY END |
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好きだよ。そう言われるのは好きじゃない。 理由とかそういう何かじゃなくて、何となくだけど。 「何時まで俺たちはこんなことを続けるんだろう」 その一言で全てが決まった。 「ねー。今度一緒に出かけよーよ」 無邪気な笑顔で彼女が笑う。 何も知らない。僕の気持ちも僕の秘密も。 だから無邪気に笑えるのだろう。 「今度、ね」 そう答えて微笑むと、微かに首を傾げながらも彼女は頷いた。 僕たちに“今度”なんてないことを彼女は知らないから。 「何処行きたい?」 自然に腕を絡ませてくる彼女の手を振り払うことはしなかった。 “最後”だから。 「好きなところでいいよ。それよりこれから何処行くか決める方が先だよ」 街ですれ違うたくさんの人たちから見たら幸せそうなカップルに見えるんだろうな。なんて考えていたら突然彼女が顔を覗き込んできた。 「聞いてた?」 何か言ってたらしい。 「ごめん。ちょっとぼーっとしてたみたい」 「疲れてるの?」 心配そうに尋ねる彼女に 「大丈夫だよ」 と笑いかける。 「あのね、駅前にできた新しいカフェに行かないかなって」 「いいよ」 何も思わなかった。 彼女が行きたいならそれでよかった。 僕の行きたいところは一つしかないから。 彼女とは絶対一緒に行けないところ。 「聖は気づいてた?」 「何?」 「今日が1周年記念だって」 「そう、だっけ?」 覚えてなんていなかった。僕にとってそれは必要のない記憶でしかないから。 「そうだよ」 「じゃあ、後で何か買ってあげるよ。何がいい?」 彼女といるのは確かに楽しい。 彼女のことは嫌いじゃないし、大切にも思ってる。 「何もいらないから今日は一緒にいて」 「いいよ」 何もあげなくてすむのは、僕にとっても楽だった。お金の心配じゃなくて、形に残るから。 一緒にいることほど簡単なことはなかった。 その後は、彼女の希望通りいろいろなところを歩いたり、見て回ったりした。 着々と時間が過ぎていた。僕にとっての幸福が近づいてくる。 日付を跨いだあたりで彼女は 「帰ろう」 とだけ呟いた。 元々そんなに夜更かしは得意じゃないのか、眠そうに目をこする彼女に不意打ちでキスをした。 僕の意思でしたのは最初で最後のキス。 彼女は驚いてたけど、嬉しそうににっこりと笑った。 「聖、また今度。でかけるの楽しみにしてるから」 彼女を家まで送り届けて、別れ際だった。 何か気づいたのかもしれない。少し寂しそうに彼女がそう言った。 「約束は守るよ」 気がついたらそう答えていた。 彼女に対しては初めて嘘をついたと思う。 「うん。おやすみなさい」 「おやすみ」 頬に触れるだけの軽いキスを交わしてから僕たちは別れた。 「聖」 彼女の家を少し離れたところで後ろから声がかけられた。 振り返る必要もなかった。 「いいのか?」 辛そうな声。 「僕が決めた道だよ。魁」 「そうか」 その後、僕たちは無言だった。 この世界を、この空気、匂いを全て覚えるように、かみ締めるようにただ歩いた。 向かう場所は魁の家。 僕が最も行きたかった場所。そして僕のあるべき場所。 もうすぐ全てが終わる。 「魁」 「ん?」 「手、繋いで。夜だからいいでしょ?」 「あぁ」 控えめに伸ばした僕の手を魁がしっかりと握ってくれた。 温かかった。 「聖、彼女は。彼女に何も言わなくてよかったのか?」 魁の家がもう目の前というところで、不意に尋ねられた。 「言えないし、言う必要もないんだよ。ちゃんとメールは送る、から」 「悩ませるようなこと言ってごめん」 「いいよ。もう終わりだから」 僕が言った言葉に魁は表情を歪めた。 「そう、だな」 魁の部屋。 久しぶりでもないはずなのに懐かしかった。 「魁。キスして」 魁は何も言わずに抱きしめてキスしてくれた。 嬉しいはずなのに、何処か苦しむような気持ち。そしてつらくて涙が零れた。 「泣くなよ」 不器用に髪をなでる魁の手。 やっぱりやめよう。そんなことは言えるはずがなかった。 「魁…」 「一緒だから。一人になんか絶対しない」 「うん…」 魁が引き出しから物を取り出す。 「メール。するんだろ?」 鈍く光るそれを握り締めながら魁が聞く。 僕はメールを送って携帯の電源を落とした。 内容は“ごめん”。唯それだけ。それ以上言う言葉なんてなかった。 僕は最低だから。彼女よりも魁を選んだのだから。 「魁。ずっと一緒だよね」 「あぁ」 魁の手の中の物が僕の左胸に刺さる。 痛みはなかった。 僕の心に浮かんだのは開放感。唯、それだけだった。 魁の腕の中で僕は息絶えた。 魁がその後どうしたのかは、僕には知りようがなかった。 それでも僕は魁を信じていた。 魁との出会ったのは彼女と付き合い始めて2ヶ月くらい経った頃だった。 雨の中濡れながら歩いてた僕に傘を差し出してくれたのが魁だった。 小さな町だからそんなのはよくあることで、家に招待してくれた魁と他愛もない話をした。 そんなことがあってから、僕たちは結構な割合で会うようになっていた。 告白とかはなかった。どちらからともなく一緒にいたいと思うようになっていて。 二人とも彼女がいるのにそんなことを続けていた。 それが何時までも内緒にできることじゃないとは知っていた。 それに、僕も魁も男だった。 同性愛。そんな言葉、ずっと僕には関係のないことだと思っていた。 それが現実になる日が来るなんて夢にも思っていなかったから。 僕が“好きだ”と言われるのを嫌がったら魁は二度と言わなくなった。 このままじゃいけない。そう思っていたのは僕だけじゃなく魁もだった。 “一緒に死のうか?”そう冗談交じりに提案したのは魁で。 頷いたのは僕だった。 “魁が一緒なら怖くない”そう言った僕に、魁は“俺もお前のためなら死んでいい”と答えてくれた。 だから二人で死ぬことを決めた。 それが僕が死ぬ1週間前のことだった。 1週間。僕にとっては地獄のように長い時間だった。 それでも全てから開放されて魁と共に幸せになれると信じていたから。 彼女に伝えられなかったのは傷つく彼女が見たくなかったから。 僕は望みどおり魁の手の中で息絶えた。 だから。だからそれで十分なのだ。 僕にとっての最高のハッピーエンドだから。 > Close *あとがき* かなり暗いです。自殺(?)もの。 それでもハッピーエンドだと信じてますが。 両思いならそれで幸せだと考えています。 06.05.20 |