キャラメルデイズ
どこまでも続いていく君との毎日。
 木の影、いつもの場所でのんびりと暇潰しの聖書を読む。至福とはいかないまでもそれなりに幸せな時間。そんな時に突然頭上から声をかけられた。顔を上げると聖書を覗きこむようにみている蒼がいて。

「やっぱここやったんか。まぁええわ。出かけんぞ」

「どこに?」

「宿屋とでも言われたいんか?」

 軽口を叩きながらも蒼の視線は相変わらず聖書に向いたまま。しかもページを捲れとまで要求してくる。読むのか喋るのかどちらかにして欲しい。

「そんなこと言ってない」

「そないにムキにならへんでもええやろ」

 慌てて否定したのが蒼には面白かったらしい。笑いながら子供をあやすように髪を撫でてくる。

「で、どこに?」

 笑われると苛々するもので話を無理やり元に戻す。

「買い物や」

「一人で行けよ」

 髪を撫でていた蒼の手を振り払う。嫌いなわけじゃないがほとんど歳の変わらない蒼に子供扱いされるのは癪に触る。

「つれないなぁ」

「いてら」

 苦笑いを浮かべている蒼をしり目に立ち上がる。

速度増加っ!!

 蒼にだけ速度をかけ、そのまま再び座り込んだ。

「いてくるわ」

 その様子を見ていた蒼は諦めたように手をひらひらさせ遠ざかっていく。後ろ姿見送った後、ふと空を見上げた。この時期には似つかわしくない程の暖かい陽気。暖かいな、そんなことを思いつつその陽気に誘われるがまま目を閉じた。

「そんなとこで寝とると風邪ひく」

「ん…あぁ、おかえり」

 声をかけられ薄く目を開くと蒼の顔があった。帰ってきたのか、まだ寝ぼけている頭でそんなことを考えつつ小さく欠伸をした。

「ただいま」

「早かったんだな」

 蒼が戻ってくるまでに実際どれくらいの時間が経っているのかはわからないけれど、熟睡していたつもりはないしそんなに長い時間ではなかったはずだ。

「買う物は決まっとんや。そんな時間はかからへん」

「そうか…」

 適当に相槌をうつ。

「それよりお前さんはこないなとこでそない無防備な格好で寝とるやなんてどういうつもりや?」

「どういうって…」

 そんなことで迫られるなんて思ってもいなかった俺。言葉に詰まる。

「危機感がないんか?」

「暖かかったからつい」

「なんかあったらどうすんねん」

 心配されてるのはわかった。が、俺だって一応成人した人間であるわけで。一から十まで心配されたくはない。

「何もないだろ」

「わからへんやろ」

「意味がわからない」

 蒼がそこまで何を心配するのかが俺にはわからなかった。

「わからせたろか」

 言葉が早いか手が早いか。木の幹に身体を押しつけられる。

「な、蒼。何考えてるんだ」

 抗議しても暴れても悠々と俺を押さえ付ける蒼。やっぱり敵わない。

「危機感もない阿呆に教えてやるんや」

「馬鹿なこと言ってないでどけ」

「おもろないな」

 小さく蹴りをいれると独り言のようにそう呟いて蒼は手を放した。

「何が」

「もうちょい抵抗とかせえへんと」

「意味がわからない」

 今日二回めの呟き。言葉のとおり、蒼のしたいことが俺には全くもって理解できない。

「まんまの意味や。もうちょい別な反応期待したんやけどな」

「お前…俺に何させたいんだ?」

「なんも?」

「なんもってお前なぁ…」

「言いなおそか?」

 溜め息をつく。蒼との先が見えない会話は苦手だった。それに気付いているのか気付いていないのか。蒼が首を傾げる。

「何を」

「ほんまはお前さんにもっと嫌がってほしかったんやけどな」

「なんでだよ」

「無理やりにでも犯せるやろ」

 にやりと笑いを零した蒼に対して呆れというか、なんとも言えない感情が込み上げてくる。

「まぁしゃあないわ。宿屋行こか」

「真っ昼間から馬鹿言うな」

「夜ならええんやな」

「違うだろ。まずそんなこと一言も言ってない」

「たまにはしたいやろ。な、遥」

 法衣の合わせ目から服の中へと手を忍び込ませられてさすがに焦る。いくら人がくることの少ないところだと言えども絶対誰もこないわけじゃない。こんな姿を人に見られたら、想像するだけでもさすがにゾッとする。

「どこに手いれてんだよっ。人が来たらどうすんだ」

「恋人同士何も不思議なことあらへんやろ」

「恋人の前に男同士だろうが、どっからどう見ても」

「…女装でもしたいんか?」

 俺の抗議には的外れな答えが返ってくる。

「何をどう勘違いすればそういう結論にたどり着くんだ」

「やっぱ着んならハイプリ?ハイウィズとかも可愛えかもなぁ」

 ハイプリにハイウィズ…。戦闘服を必死に思い出す。そして、どっちも男が着るなんてとんでもない服だったはずだと気付く。そもそも俺に女装癖はないわけで。

「着れるわけないだろ」

「遥なら大丈夫や」

「女装の話は後だ。とりあえず手を放せ。俺に触るな」

「そないなつれないこといわんと…」

「宿屋行くんだろ。離れろよ」

「行く気になってくれたんか」

「どっかの馬鹿は行かなきゃここで始めそうだからな」

「さっきから馬鹿馬鹿言い過ぎや」

「馬鹿は馬鹿だろ。お前が教授なんて職についてること自体奇跡だと思うぞ」

「お前さんみたいな力で押し切る奴よりは賢いから平気や」

「あーはいはい」

蒼の手が緩んだすきをついて、立ち上がった。これ以上こんなところで羞恥プレイをされるのはまっぴらだ。

「行こか」

俺が立ち上がったのを見て、蒼も遅れて立ち上がる。そして、さり気なく手を握ってくる。

「手。なんで握ってんだよ」

「逃げへんようにや」

「今更逃げない」

「わかっとる」

「じゃあ、何なんだよ」

「握りたいからや」

 あまりの直球解答に一瞬戸惑う。その沈黙の後、一度手を振りほどき指を絡めてみる。

「こっちの方がいいだろ」

「やっぱ阿呆やな」

 小さな声で確認するように聞いてみる。くすくす笑いを零した後、蒼も手を握り返してきて。

「俺もお前も阿呆だからやってられるんだろ」

「そやな」

 二人でいつもの宿屋へ。馬鹿みたいな関係だけど、これからも変わらない。この関係がずっと変わらない方が良いに決まってる。








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     *あとがき*
      
      バカップルの日常。
      似非関西弁です。
      


                             08.04.07