夕時雨
素直になれなかった。そんな気持ちを洗い流してくれる雨と君の笑顔。
 突然降り出した雨は法衣を濡らし、身体を冷やしていく。 
 寒いと感じたのは雨のせいじゃないかも知れない。

「風邪ひきますよ?」

「暁、か」

 小さく呟いただけで顔を上げなかった。
 声を聞くだけでその人と判断できるのだからどうしようもないなと、そんな考えが頭をよぎる。

「久しぶりですね」

 隣に座った暁がしみじみと声をかけてくる。

「会いたくなかった」

「私のギルドのところの溜まり場にいて、それはないでしょ?」

 不満げに零すと暁が肩を竦めた。
 会いたくないというのは完全に嘘だ。暁に会いに来たのだから。

「行くところがなかった」

「・・・また喧嘩でもしました?」

「あぁ。また、だよ」

 少し怒ったような声色。
 喧嘩というほどのことじゃないけれど、思わず飛び出してきた。
 それを指摘されるのはなんだか気に食わなかった。

「それで私のところきてどうするんです?」

「わからない」

「遥はどうしたいんですか?」

 小さく笑って暁が尋ねる。

「お見通しってことか」

 暁の質問に苦笑いした。扱い方がうますぎる、そう思った。

「遥のことならね。どれくらい付き合ったと思ってるんですか」

「変わらないな」

「変わってないのは遥もですよ」

「そうだな。・・・俺、謝ればいいのかな」

 独り言のように呟く。
 答えが欲しいわけではなかった。

「私は何も言わないですよ」

「わかってる」

 返ってきた答えは思わず笑いがこぼれるくらい予想通りで。

「素直になったらどうですか?」

「素直だよ、いつでも」

「どうでしょうね」

 冗談めかした答えに対して、至極まじめに返事を返してきた暁に少しだけとまどった。

「なぁ暁」

「なんですか?」

「一晩一緒にいて」

 半分冗談、半分は本気に近かった。
 どうせ今夜は眠れない。 それなら誰かと一緒に話していられる方が楽に決まっていた。

「一緒に寝ま・・・」

 少し考えるような間の後、笑いながら手を伸ばしてきた暁を思いっきり殴る。
 冗談だとわかっていたから軽く殴るつもりだった。
 それなのに過去の思い出が頭をよぎって。加減がつかなかった。

「また俺を傷つける気か」

「痛いです」

 一瞬気まずそうな顔を浮かべた暁を見て、やってしまったとは思ったが仕方がない。
 ふと見ると暁はいつも通り柔和な笑みを浮かべ、殴られた頬を押さえながら文句を言う。

「うるさい」

 それが気に入らなくて、八つ当たりのようにもう一度。
 今度は頭を殴った。
 暁はただ黙って俺を見ているだけだった。

「遥」

 暁の声色が少しだけ、変わった気がした。
 だから、黙って次の言葉を待つ。

「私たちは終わったんですよ?」

 今更何を言っているんだろう、そう思った。
 終わった、言われなくてもそんなことわかってるつもりだった。

「知ってる、わかってる。そんなこと言われなくても・・・」

 いざ声に出すと何故か震えた。

「私を頼っても良いですけどそれで傷つくのは遥ですよ」

「俺は、傷つかない」

 自身に言い聞かせるように呟いた。

「そんな顔しないでください」

 不安だった。いろいろと。
 それが顔に出ていたのかもしれない。
 暁が困ったように俺を見ていた。

「暁。俺どうしたら良い?」

「甘えないでください」

 何も教えてくれないことも、俺自身が答えを出さなければいけないこともわかっていた。

「怖いんだよ」

「大丈夫ですよ。遥は強いから」

 笑って髪を撫でる暁の手が温かく感じた。

「強くなんかないからここへ来るんだよ」

「違うでしょ。遥は逃げてるだけ。向き合わないとまた失いますよ?」

「失いたくはない・・・」

「少し休んだら帰りましょ?」

「・・・ごめん」

「今更何言ってるんですか。だいたい謝る相手が違うでしょ」

「ん・・・俺、やっぱり・・・」

 何を言おうとしたのか自分でもわかっていなかった。
 ただ、言ってはいけない。そう頭の中で警告がなっていた。

「言わないでくださいね」

「言わないよ」

「いつまでも子供じゃないんですからね」

「わかって、あ・・・」

 よく知った姿を遠くに見つけて言葉に詰まる。
 俺の視線の先を見た暁が首を傾げる。

「迎えじゃないですか?」

「・・・そう、みたいだ」

「帰らないんですか?」

 気恥ずかしさに顔を逸らすと、からかうように笑みを浮かべていた暁と目が合った。

「帰る」

「早く行かないと置いて行かれるんじゃないですか」

 冗談めかした言葉と共に、ほら。と言って背中を押される。

「ありがと、暁。・・・また、来てもいいか?」

 立ち上がると小さく頭を下げる。
 こちらに背を向けて立っている蒼を見て、笑顔が零れた。

「今度はゆっくりと話でもしに来てください」

「また来るよ、今度は蒼と一緒に」

「待ってます」

 小さく手を振った俺に暁がにっこりと微笑む。
 それを見て暁に背を向けた。少し離れたところで俺を待っている大切な人の元に帰るために。

  いつの間にか雨は止んでいて。空には虹がかかっていた。







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     *あとがき*
      
      微妙すぎる関係・・・。浮気っぽいノリですけど。
      何がしたいのかわからない話になったけれど自分の中ではこれで満足。
      蒼に遥を迎えに来させたかった、それだけ。


                             08.03.29